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深夜のタイムカードを打刻し、請求額が数百万

A社は、販売業を営む会社であり、本社の他にも県外に4か所の営業所があります。その中のF営業所では、6人の営業担当社員と1名の事務パート社員がおり、その営業所で採用されて3年近くになるHさんは、入社してからずっと営業成績がふるわず、営業所長から叱咤激励されています。営業所は単身者用の賃貸マンションの1階にあり、ただ一人の独身であるHさんは営業所があるマンションの1室に住んでおり、そのためHさんは営業所の戸締まりをすることも多くあります。入社してから営業成績が続くHさんは、ある日とうとう営業所の所長に退職願いを提出し、翌月に退職しました。ところがHさんが退職して1週間後に、Hさんの代理人と名乗る弁護士からA社の本社に内容証明郵便が送られてきました。その内容は「Hさんが貴社に在職中に発生した、過去2年分のサービス残業代として数百万円を支払え」というものでした。Hさん側が提出してきたタイムカードを見ると、打刻時間は毎晩10時や11時となっており、毎日4時間から5時間もの残業が行われていることになっていました。どうやらHさんは、営業所の上に住んでいることを利用して、遅い時間に会社のタイムカードを打刻していたようでした。A社は弁護士を依頼し、Hさんの弁護士と交渉した結果、Hさんが勤務していない日にもタイムカードに打刻していたり、手書きで記載した時間が誤っているなどの問題点を指摘し、約80万円の支払いで話がまとまりました。

○発生の要因

@労働時間管理のずさんさが要因
F営業所では、出勤の管理は顔をみれば分かるとして、退勤のタイムカードのチェックを行っていませんでした。また、Hさんに戸締りを任せるなどしていて退勤時間がわかりにくくなっていたこともトラブル拡大の要因となりました。本社の経理もタイムカードは気になっていたようですが、営業所長が「問題ないから大丈夫」と話したのを鵜呑みしていたようです。

A営業手当の趣旨や説明が不足
Hさんには営業手当3万円が支払われていましたが、賃金規程などに営業手当が時間外労働手当であるとの記載やHさんへの説明も不十分であり、最近は固定時間外手当について厳しくなっていることへの対応が出来ていませんでした。

○今回の会社の対応など

<事実確認>

@書類関係の確認
タイムカードや営業日報などを確認すると、Hさんの毎日の勤務終了の打刻は22時や23時となっており、深夜2時という打刻もありました。

A営業所長などからの事実確認
Hさんが打刻したタイムカードをもとに、営業所の所長や同僚などに、Hさんの勤務状況について確認すると、営業所で18時から近所の飲食店で懇親会を行った日にも23時に打刻されていたり、その日は本社に出張のため他の社員と宿泊していた日にもかかわらず、手書きでタイムカードに記載があったりすることなど、嘘の記載も多いことが判明しました。

<処分の検討と結論> 

Hさんの行為は、A社の就業規則の解雇事由である「偽りの報告を行い、不正に金銭等を取得した場合」や減給事由の「会社の秩序を乱した場合」などに当たり、さらに虚偽の打刻などにより請求を行い会社の秩序を乱したといえます。しかしこれを糾弾しても、Hさんの請求自体を無効とすることは不可能です。そこで、Hさんの違法行為を指摘し、粘り強い交渉の結果、請求額の5分の1の金額の支払いで解決しました。

  

■サービス残業について

@法律の定義とサービス残業
労働基準法第10条では、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものを賃金と定めておりこれを支払わないことを「賃金の未払い」と言います。また同法では法定労働時間や法定休日が定められ、この時間を超えたり休日に働いた場合などには割り増し賃金を支払うものとされており(第32,33,37条など)、これらの義務に反して支払わないことを俗に「サービス残業」と呼んでいます。これに反した場合には、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が規定されています(同法119条)

A厚生労働省の指針やなど
厚生労働省では、「賃金不払い残業の解消を図るために講ずべき指針」などを定め、さらに労働基準監督署などが調査を行い行政指導を行っていますが、平成24年度における是正を命じられた企業数は 1,277で、支払われた割増賃金は合計104億超となっており、1企業での最高支払額は5億円を超えています。

■固定時間外手当が否定された判例

社員がサービス残業代の支払いを求めた裁判で、会社が基本給を月額で定め、月の総労働時間が一定の時間を超えた場合に一定額を別途支払うことなどを定めた雇用契約を締結した場合でも、基本給と時間外の割増賃金との区別などが明確になされておらず、基本給の一部が時間外労働に対する賃金である旨の合意もされていないなどとして会社側に支払いが必要と判断した判例(テックジャパン事件・上告審事件 最高裁 H24.3.8判決)などがあります。

■基本的な企業の対応や予防策

サービス残業に関するトラブルを防止には、まずは労働時間を正確に把握しそれに基づいて支払う事が基本となります。もしも固定時間外手当として予め支払う場合には、原則として固定時間外手当に含まれる時間外労働時間数を明記することなどが重要になります。また、賃金の変更が不利益な変更となる場合には、原則として労働者の同意が不可欠となりますので、注意が必要です。